東京高等裁判所 昭和26年(ネ)2232号 判決
訴訟費用(参加によつて生じた費用を含む)は第一、二審共被控訴人の負担とする。
この判決は仮りに執行することができる。
二、事 実
控訴代理人は、原判決を取り消す、被控訴人の本件仮処分申請を却下する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の各代理人は、事実関係につき、それぞれ左記のとおり当審において主張した外は、原判決の事実摘示記載のとおり陳述したから、これを引用する。
被控訴代理人の主張
一 控訴人らが本件越後屋ビルの屋上を使用する権限のないことは、被控訴人が第一審以来主張しているとおりである。そして、参加人と控訴人広瀬との間の本件屋上建物の賃貸借は、被控訴人をして、本件ビルの屋上の使用を強いて承諾させるため、名を貸借に藉りただけのことであつて、その実は売買に外ならないのである。すなわち、右の賃貸借契約においては、当初売買代金として協定した金百二十七万五千円をもつて、そのまま敷金とし、さらに、その敷金をもつて被控訴人の承諾を条件とする売買代金に充当することになつているのであつて、このように、敷金が売買代金と同額というような賃貸借はありえないことである。この一事からしても参加人と控訴人広瀬との間の右賃貸借は虚構であつて、その実質は売買であることは明らかである。
二 本件仮処分の必要性について。控訴人広瀬の経営する帝国秘密探偵社が、本件ビルの屋上建物を使用しているので、本件ビルの各商社の顧客が減少し収益が妨げられ、その結果ビルの各貸室の価値すなわち権利金、賃料等が下落するのは当然であるから、これにより被控訴人は著しい損害を受けることになる。
三 補助参加について。参加人は、本件仮処分については第三者であるから、本件ビルの屋上建物を使用する権利を主張してその救済を求める方法がある。従つて、参加人は、自己の権利を擁護するため、控訴人らに対する本件仮処分を阻止する必要は認められない。また、参加人は、本件仮処分により何らの損害も被むることはないのである。すなわち、参加人は本件屋上の建物を昭和二十五年九月以来放置し、監視人さえも置かなかつた。しかも、この屋上の建物は、違法な建築物として、やがて強制撤去の運命にあるものである。
控訴代理人の主張
一 被控訴人が、本件仮処分の必要性について主張するような事情のあることは、これを否認する。また、その主張のような事情は、本件のような仮処分の必要性を充たすには足りないものである。
二 被控訴人の本件仮処分申請の趣旨は、控訴人らを本件ビルの屋上建物から退去せしめ、控訴人らがこの建物に立ち入ることを禁止しようとするのであつて、右仮処分によつて保全しようとする請求権は、控訴人らに対する本件建物の明渡請求権に外ならない。従つて、本件仮処分は、右明渡請求権の終局的実現を目的とするものであるから、控訴人らにとつては、到底回復できない損害を生ぜしめるもので、許すべからざるものである。
三 控訴人らが、本件屋上の建物に移転するに至つた事情は、控訴人らに極めて急迫した事情があつたからである。それで最初参加人と控訴人広瀬との間に本件屋上の建物について、売買の話が進行したのであるが、被控訴人はこの売買を承諾しなかつたので、止むなく売買を中止し、敷金として百二十七万五千円を参加人に支払い、もし、被控訴人の承諾があれば、即時に右敷金を代金として控訴人広瀬が参加人から屋上の建物を買受けるという特約の下に賃貸借契約をしたのである。
参加代理人の主張
一 参加人は、本件仮処分について、訴訟の結果に利害関係を有するから、控訴人らを補助するため民事訴訟法第六十四条により訴訟に参加する。本件ビル屋上の建物は参加人の所有かつ占有中にあつたものを、控訴人広瀬に対し、昭和二十六年八月三日賃貸したのであつて、広瀬は同月十二日から右建物を使用するに至つたのである。しかるに、被控訴人は、控訴人らを仮処分債務者として本件仮処分判決、すなわち、本件屋上の建物に対する控訴人らの占有を解いて被控訴人の委任する東京地方裁判所執行吏にその保管を命ずる、控訴人らは右建物に立ち入つてはならない、という趣旨の判決を受けた。そして、本件建物について右のような仮処分があれば、参加人の所有である屋上の建物に対する使用収益が妨げられ、その所有権は不法に侵害せられることになるので、本件参加申出をした次第である。
二 被控訴人は、本件ビルの所有者である訴外永井合資会社に代位して、控訴人らに対し、本件ビル及びその屋上の建物の明渡を求める権利を有し、その明渡請求権を保全するため本件仮処分を求めるというのである。しかし、原審が認容したような仮処分は係争権利を実現することになるから、権利保全の目的を超えた仮処分となるので、このような仮処分は許されないものである。また、本件は民事訴訟法第七百六十条にいう著しい損害を避けるため必要とする場合にも当らない。
三 参加人と被控訴人との間の本件ビルの屋上の賃貸借契約書には、参加人が屋上を転貸する場合には、被控訴人と協議する旨の記載はあるが、この記載は、参加人所有の本件屋上の建物を他に賃貸するような場合をいうのではなく、参加人がこの屋上の建物を他に売却し、または、ビルの屋上自体を他に転貸する場合には、被控訴人と協議する旨を定めたに過ぎない。しかも、参加人が屋上の建物を控訴人広瀬に賃貸するについては、予め何回も被控訴人と協議をしている。
四 本件ビルの屋上の賃貸借は、建物の所有を目的とするものであり、その賃借人である参加人はこのビルの屋上に建物を所有しているのであるから、ビルの屋上を使用しうるのはもちろん、ビルの屋上からビル外の道路に至る階段、エレベーター、出入口等の通路、その他本件屋上の建物を所有し、また、これを利用するに必要な諸設備は、被控訴人の特別な承諾を受けることなく、これを使用しうる権利を伴うものである。従つて、参加人が屋上の建物を他に賃貸しても、ビル屋上の賃貸借契約を解除する原因とはならない。仮りに、被控訴人のいうように、本件ビル屋上の賃貸借について、ビル屋上の使用者が変更する場合には、被控訴人の承諾を要する旨の特約があつたとしても、その特約に違反した場合に、被控訴人が何等の催告を要せずして右賃貸借契約を解除しうるような特約をしたことはないから、その催告なくしてなされた本件解除の意思表示はその効力を生じない。
五 終戦後住宅や事務所が払底し、特に銀座街においては、事務所を借り受けることが困難な事情にあり、一面参加人は、旧三井系の一流商社であつて、経営方針も、堅実で相当の信用があり、また、賃料を延滞したこともないのである。本訴の問題は、被控訴人が控訴人帝国秘密探偵社こと広瀬弘に対する悪感情から出たものである。従つて、被控訴人の本件解除権の行使は民法第一条の信義誠実の原則に違反し、権利の濫用であるから、解除の効力を生じないものである。
<立証省略>
三、理 由
別紙<省略>物件目録第一記載の建物すなわち通称越後屋ビルは、訴外永井合資会社の所有であつて、被控訴人が一括してこれを右所有者から賃借し、貸室業を営むものであること、中国人曹潤開が被控訴人から右ビル屋上の床五十二坪五合を、終戦後に建物所有の目的で、期間二十年と定めて賃借し、この屋上に別紙物件目録第二記載の建物を所有していたこと、昭和二十三年三月頃右曹が本件屋上の建物を参加人に売渡したので、被控訴人は同月十五日頃参加人に対し、右ビルの屋上五十二坪五合を、期間前賃借人曹の残存期間である十八年七ケ月と定めて賃貸したこと、参加人が本件屋上の建物を昭和二十六年八月三日頃控訴人広瀬に賃貸し、控訴人ら三名がその社員、人夫などにより同月十二日(日曜日)の夕刻本件屋上の建物内に一部の荷物を運び込み、また、大部分の荷物を本件ビル一、二階の廊下に運び込んだところ、京橋警察署員の阻止によつて、右の荷物は一応現状のままとし、右の社員、人夫らがビルを引上げたこと、その翌十三日京橋警察署長の仲裁勧告があり、控訴人広瀬は同日東京地方裁判所に被控訴人を相手方とし、被控訴人は本件ビルの一階から七階に通ずる通路、階段の通行を妨害してはならない、という仮処分命令を申請して、その趣旨の決定を受け、同日この仮処分の執行により、多数の荷物を本件屋上の建物に運び込んだことは、当事者の間に争がない。
被控訴人は、参加人と控訴人広瀬との間の本件屋上の建物の賃貸借契約は、虚構のものであつて、その実質は右建物の売買であると主張しているが、被控訴人のいうように、参加人と控訴人広瀬との間において当初右屋上の建物の売買代金として協定した百二十七万五千円をもつてそのまま賃貸借の敷金に充て、さらに、その敷金額をもつて、被控訴人の承諾を条件とする売買契約の代金に充当することになつていたとしても、このことだけでは、右賃貸借が虚構のものと認めることはできないし、他にこれを認めうるような疏明がない。かえつて、乙第一号証、甲第十四号証の一、二によると参加人と控訴人広瀬との間の本件屋上の建物の賃貸借は虚構のものではなく、真実成立したものであることが疏明される。
被控訴人は、同人と参加人との間には、参加人が本件屋上の建物を他に賃貸することにより本件ビルの屋上の使用者が変更する場合には、被控訴人と協議の上その承諾を受けねばならない特約があつた。そして、参加人が前記のとおり控訴人広瀬に本件屋上の建物を賃貸するについては、被控訴人の承諾を得ていない。従つて、参加人と被控訴人との間の前記賃貸借契約は右の特約に反するから、被控訴人は昭和二十六年八月十六日附同月十七日到達の内容証明郵便をもつて、参加人に対し、被控訴人と参加人との間の本件屋上の賃貸借契約を解除したので、右賃貸借は消滅した、と主張している。そして、本件ビル屋上の賃貸借契約書である甲第三号証の一第五条には、賃借人はその賃借したビル屋上を転貸する場合には、賃貸人である被控訴人と協議するものとする、と記載してあるが、被控訴人のいうように、被控訴人の承諾を要する趣旨の記載はない。のみならず、参加人と控訴人広瀬との間の右の賃貸借は、建物の所有者がこれを賃貸する場合であつて、建物の賃借人がこれを転貸する場合ではないのであるから、屋上の建物自体を他に賃貸するについては、本来は、被控訴人の承諾を必要とするものではないと解せられること、しかし一方、本件屋上の建物は、他人所有のビルの六階屋上に建てられたものであつて、この屋上の建物を賃借したものは、その建物の敷地に相当するビル屋上の床の部分を使用することになるのはもちろん、ビルの廊下、階段及び電気、ガス、水道等ビルの共用部分をも使用することになるのは明らかなことであるし、また、本件越後屋ビルは、前記のとおり、貸ビルであつて、このビル内で営業している多くの借室人があることであるから、その屋上の本件建物の賃借人のいかんによつては、右の借室人や貸室人である被控訴人に迷惑を及ぼすということもありうることである。よつて、以上のような事情と甲第三号証の一の前記の文言及び乙第二、五号証原審証人矢田部知博の証言とを合せ考えると、本件屋上の建物を参加人が他に賃貸するについては、被控訴人のいうように、常に被控訴人の承諾を要するという趣旨ではなく、次のような趣旨の特約であつたものと認めるのが相当である。すなわち、参加人が他に屋上の建物を賃貸するには、ともかく一応被控訴人に協議を求める。そして、被控訴人がこれを承諾すれば問題はないのであるが、被控訴人が承諾を拒絶しようとする場合は無条件にこれを拒絶しうるものではなく、屋上の建物の賃借人が他の借室人や被控訴人に迷惑を及ぼし、一般に忍び難い程度のものであつて、賃借人として不適当なものと認められる場合に限る趣旨であると認めるのが相当である。そして、参加人が本件屋上の建物を控訴人広瀬に賃貸するについて、被控訴人の承諾を求めたことは被控訴人が認めているのであるから、協議の交渉をしたものというべきであつて、これに対し、被控訴人は承諾を拒絶したことは当事者の間に争のないところである。そして、その拒絶の理由は、原審証人吉村新蔵の証言甲第八号証の一、二によれば、控訴人広瀬の業務は秘密探偵というのであるから、その業態の上から云つて、ビル屋上の建物の賃借人として好ましくないものである、というだけのことであつて、その他特別の理由は示されていない。しかし、秘密探偵の業務はキヤバレーやダンスホールの経営が正業であると同程度に正業であつて、これを営むものが、その本来の業務を正当に行つていて、これに伴い何等不当の行為がなされない限り、秘密探偵という業務の種類からだけでは、右に説明したような、不適当な賃借人と認めることはできない。もつとも、甲第五、六号証の各一、第十四号証の三、第十五号証の一、二、三によれば本件越後屋ビルには、被控訴人のいうように、キヤバレー、ダンスホール、グリル等があつて、秘密探偵社の看板とキヤバレーの看板とが同ビルの外側に上下して掲げられ、不調和な外観を呈しているので、キヤバレー等に来集する客の気分を損じ、客足が多少減ずることがありうる、というようなことは認められない訳ではないのであるが、この程度のことだけでは、帝国秘密探偵社こと広瀬弘がビル屋上の建物の賃借人として不適当なものであつて、被控訴人においてこれを拒みうるものということはできない。殊に、甲第十四号証の一、二、乙第一、二、四号証、丙第四、五、六号証によれば、控訴人広瀬外二名は従来営業所として借受け使用していた越後屋ビル附近の教文館の借室を明渡さなければならないことになり、銀座附近には本件屋上の建物を措いては他に営業用の借室を求め得なかつたので、止むなく参加人からこれを賃借し、その引渡を受けこれに移転したものであるから、被控訴人としては秘密探偵社の業務が好ましくないとしても、一般的にみて、被控訴人に忍び難い程の迷惑を及ぼすものということはできないのである。従つて、参加人が控訴人広瀬に本件屋上の建物を賃貸したことは、参加人と被控訴人との間の本件ビル屋上の賃貸借契約について定められた特約に違反したものではなく、従つてまた、この特約に違反したことを理由とする被控訴人の右賃貸借の解除はその効力を生じないものである。
次に被控訴人は、参加人から控訴人広瀬に対する本件屋上の建物の賃貸借は、本件ビルの屋上の床の転貸となるから、これを理由として、民法第六百十二条に従い、被控訴人と参加人との間の賃貸借契約を、前記昭和二十六年八月十六日附同月十七日到達の内容証明郵便をもつて解除した、と主張している。そして、控訴人広瀬が参加人から賃借した右屋上の建物を控訴人らが使用するには、その建物の敷地に相当する本件越後屋ビル六階の屋上の床の部分を占有使用する必要のあるのはもちろん、この建物に出入するには、ビルの廊下、階段などを通行せねばならないし、また、ビルの電気、水道、ガス等の共同施設をも使用することになるのはこの種の貸ビルの構造と使用の実情からみて当然のことである。思うに、賃借人が賃借物を転貸するには賃貸人の承諾を必要としている(民法第六百十二条第一項)。しかし、土地の賃借人がその借地上に所有する建物を賃貸するについては、建物の賃借人はその敷地も使用することになるのではあるが、地主の承諾を必要としないものと解されている。これを本件についてみれば、本件屋上の建物を賃貸すれば、これに伴つて当然に本件ビルの一部である六階の屋上や右の共用施設の使用者の変更を生ずるものといわなければならないのであつて、この点から考えると、右の使用者の変更は、本件ビルを一括して所有者から賃借し貸室業を営んでいる被控訴人の利害に関係を有するところから、屋上の建物を賃貸するには、賃借人がその賃借物を転貸するには賃貸人の承諾を要するという右民法の規定の趣旨に準じ、被控訴人の承諾を要する、という見解が成り立ちうる余地がないとはいえないのである。しかし、本来建物の所有者は、本件におけるように、その建物が他人の所有に属するビルの屋上に存在する場合においても、所有権の効力として自ら使用し、他に賃貸して収益し、また、自由にこれを処分しうるものであるから、特別の理由のない限り、これらのことが妨げられる訳のものではない。しかも、本件建物のように、他人の所有に属するビルの屋上に存在する建物を他に賃貸する場合においては、前記のとおり、その賃借人は建物の敷地に当るビルの屋上やビルの階段、廊下等通路に当る部分を使用するのはもちろん、また、ビルの電気、ガス、水道等の共用施設をも使用することになるのは、この種の貸ビルの使用の実情からみて当然のことである、従つて、ビルの屋上を建物所有の目的をもつて賃貸したものは、その賃借人が屋上に所有する建物を他に賃貸するということは当然にありうることであり、また、その屋上の建物の賃借人が敷地に相当する屋上の部分やビルの通路に当る部分及びビルの電気、ガス、水道等の設備を利用することになるというようなことも当然に予想していたことといわなければならない。従つて、本件のようなビル屋上の建物所有を目的とする賃貸借契約の趣旨からみて、屋上の建物の所有者が、その建物の通常の用法に従いこれを他に賃貸し、その賃借人が、他の借室人や貸ビル営業者に対し特別な迷惑を及ぼし、一般の見解に従い、忍び難い程度のものと認められるような特別の事情がない限り、ビル屋上の賃貸人は、その賃借人が屋上に所有する建物を他に賃貸することを拒みえないものと解するのが相当である。もし、しからずして、右のような場合に、ビル屋上の賃貸人が、その賃借人において屋上の建物を他に賃貸することを、自由意思に従つて拒絶しうるものとすれば、屋上の建物の所有者が、自らこれを使用する必要のなくなつた場合には、これを利用する方法がなく、ビルの屋上に放置したままいかんともすることができないことになり、このようなことは、ビル屋上を建物所有の目的で賃貸した契約の趣旨に反する結果となるのである。そして、前に説明したとおり、控訴人広瀬が(その他の控訴人についても同じ)本件屋上の建物の賃借人として不適当であるということはできないのである。
以上のように、参加人が控訴人広瀬に対し、被控訴人の承諾をうることなしに、屋上の建物を賃貸したのは正当であつて、被控訴人に対抗しうるものであるから、被控訴人はこれを理由としてビル屋上の賃貸借契約を解除しえないものであるし、また、控訴人らはいずれも本件ビルの屋上を使用する権限を有するものであつて、被控訴人は控訴人らが本件ビルに出入することを拒みえないものといわなければならない(控訴人広瀬以外の二名が参加人の承諾をえて本件屋上の建物を使用しているものであることは、参加人の弁論の全趣旨から明らかである)。従つて、控訴人らが本件ビルの屋上を占有すべき何等の権原なく不法にこれを占有していることを前提とし、ビルの所有者に代位し、これが明渡請求権を有するものとし、その執行保全を目的とする本件仮処分申請は理由がない。
なお、控訴人らが本件屋上の建物に入つてこれを使用するに至つた経過についてみると、原審証人吉村新蔵の証言甲第七、十、十一号証及び当事者双方の主張により次のようなことが認められる。すなわち、参加人は昭和二十五年九月頃本件屋上の建物から他に移転し、その後は控訴人らがこれに入るまでは鍵をかけたまま空室になつていたので、その間被控訴人はビルの守衛をして看守させていたこと、参加人は昭和二十六年三月末頃本件屋上の建物を控訴人広瀬に売りたいというので被控訴人にその承諾を求め、また、同年七月末には右広瀬に賃貸したいというので被控訴人にその承諾を求めたのであるが、被控訴人は前記のとおりの理由でいずれもこれを拒絶したこと、その後同年八月十二日午後六時半頃控訴人らの使用人数十名の者が参加人から本件建物を賃借したといつて、ビルの守衛が阻止したにもかかわらず強引にこれを排し、本件ビル内に荷物を運び込み、翌十三日には京橋警察署において、同署長の勧告により控訴人広瀬と被控訴人との間に、同控訴人は本件ビル内に運び込んだ荷物は全部一応引取つて原状に戻し、控訴人が本件建物の使用権があるかどうかの問題は、裁判所の判断に従う、との話合となつたこと、しかるに、控訴人広瀬はその直後被控訴人を仮処分債務者とし東京地方裁判所に仮処分を申請し(同庁昭和二十六年(ヨ)第三、一六一号、これに対する異議事件は同年(モ)第四、九六七号、これに対する控訴事件は当裁判所同年(ネ)第二、二三三号)、被控訴人は、本件ビルの一階から七階に通ずる債権者広瀬の通行を妨害してはならない、との仮処分決定を受け、その執行により一切の荷物を本件建物内に運び込み、その後同建物を控訴人ら三名において使用していることが疏明される。
以上の経過によつてみると、本件について当事者の間に問題の生じたのは、本件屋上の建物の賃貸借の効力について法律上の見解に相違を生じたからのことであつて、しかも、このような場合の争は、本件のように、ビルの屋上を建物所有のため賃貸したという極めて異例の場合について生じたものであつて、その権利関係の判定には疑を生ずる余地が多分にあるのであるから、右のような問題を生じたことも止むをえないことといわなければならない。従つて、右のような経過をしんしやくしてみても、控訴人らが本件屋上の建物の使用者として不適当であるということはできないし、また被控訴人が控訴人らに対し本件ビルの屋上の明渡請求権を有する理由とすることはできない。
次に本件補助参加人は、ビル屋上の建物の所有者で、これを控訴人広瀬に賃貸しているのであるから、(その他の控訴人二名の使用も承諾している)広瀬が本件のような仮処分によつて右建物から退去することになれば、参加人の賃料債権その他賃貸人及び建物所有者としての法律上の地位に影響することがあるし、訴訟の結果について利害関係を有することはもちろんである。よつて、参加の申出は、許さるべきものである。
以上説明したところにより、本件仮処分を命じた原判決は不当で、控訴は理由があるから、原判決を取り消し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条第九十六条仮執行の宣言については同法第百九十六条の各規定を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 藤江忠二郎 薄根正男 浅沼武)